さくらの木のしたで

ハナちゃんとソラくんのおはなし

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― 1 ―

むかしむかし、ある村に、ハナちゃんという女の子がいました。
ハナちゃんは、きれいなものが大好きな子でした。

春になると、村のまんなかにある大きなさくらの木が、まいとし見事な花をさかせます。

ハナちゃんは満開のさくらを見あげて、目をきらきらさせて言いました。

「わあ! こんなにきれいなお花をさかせるなんて、かみさまって、すごいなあ!」
❀ ❀ ❀

― 2 ―

すると、そこにソラくんという男の子がやってきました。
ソラくんは、本をよむのが大好きで、なんでもきちんとしらべないと気がすまない子です。

ソラくんは、ハナちゃんの言葉をきいて、ぷりぷり怒りました。

「かみさまなんか関係ないよ! さくらが咲くのは、あたたかくなって、木が自分の力で花をさかせるんだ。ぼく、本で読んだもん!」
「さくらの中にかみさまがいるなんて言うのは、まちがいだよ!」
❀ ❀ ❀

― 3 ―

ハナちゃんは言いかえしました。

「だって、こんなにきれいなのよ! きれいなものをつくれるのは、かみさまだけじゃない!」
「ちがう! さくらはさくらだよ。かみさまがつくったんじゃなくて、たねから育ったんだ!」

ふたりは「かみさまだ!」「ちがう!」と、おおげんかをはじめてしまいました。
さくらの花びらが、はらはらとふたりの上にふっていましたが、ふたりはもう気づいていません。

❀ ❀ ❀

― 4 ―

そのとき、さくらの木のとなりの古い木に止まっていたフクロウおじいさんが、ゆっくりと目をあけました。

フクロウおじいさんは、百年も生きていて、この村でいちばんかしこい、と言われています。

「ホッホッホ。ふたりとも、ちょっとこちらへおいで」

ふたりは、けんかをやめて、フクロウおじいさんのところへ行きました。

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― 5 ―

フクロウおじいさんは、ハナちゃんにたずねました。

「ハナちゃん、おまえさんは、さくらの花びらの中にかみさまが住んでいると思うかね?」
「うーん……花びらの中に住んでいるっていうか……でも、こんなにきれいなものを見ると、すごいなあ、って思うの」
「そうかそうか。では、ソラくん。おまえさんは、さくらがきれいだと思うかね?」
「……きれいだとは思うよ。でも、それとかみさまは関係ないよ」
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― 6 ―

こころで見る あたまで見る

フクロウおじいさんは、にっこりわらいました。

「いいかい。同じさくらを見ても、見かたはひとつじゃないんだよ」
「ハナちゃんは、こころの目で見ておる。きれいだなあ、ふしぎだなあ、すごいなあ、っていう気もちで、さくらを見ておる。その気もちがあんまり大きいから、『かみさま』という言葉になるんじゃ」
「ソラくんは、あたまの目で見ておる。どうして咲くのか、なにでできているのか、きちんとしらべて分かりたいんじゃな。その気もちも、とても大事なことだよ」
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― 7 ―

「でもな、大事なことを教えてやろう。

こころの目だけでは、さくらのほんとうのすがたは見えない。あたまの目だけでは、さくらのほんとうのうつくしさは見えない。

ふたつの目をもっている子が、いちばん多くのものを見られるんじゃよ」

ハナちゃんは、ソラくんを見ました。
ソラくんも、ハナちゃんを見ました。

「……ねえ、さくらって、どうして春に咲くの?」
「あのね、冬のあいだ寒い日がつづくと、木が『春がきた!』って気づくんだって。……でも、さ」
「それを知っても、やっぱり……きれいだなって、思うよ」

ハナちゃんは、うれしそうにわらいました。
ソラくんも、すこしだけ、てれくさそうにわらいました。

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― 8 ―

フクロウおじいさんは、「ホッホッホ」とわらいながら、夕やけの空にとんでいきました。

さくらの花びらは、しずかに、しずかに、ふたりの上にふりつづけていました。

ハナちゃんの目にも、ソラくんの目にも、おんなじさくらがうつっていました。

でも、ふたりが見ているものは、すこしだけちがっていて――
そして、そのどちらも、まちがいではなかったのです。

おしまい

同じものを見ても、こころで「すてきだなあ」と感じる子と、
あたまで「どうしてだろう」と考える子がいます。

どちらも、世界をたいせつに見ている子です。

けんかをしなくても、だいじょうぶ。
おたがいの目を借りれば、
世界はもっともっと広くなるのですから。

― 了 ―